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伊藤紀子さん（仮名）は夫と２人暮らしでしたが、認知症の症状が見られるようになり介護施設に入居していました。しかし、場所が分からずに他の利用者の居室に入ったり、意思の疎通ができず介護を受け入れようとしなかったりという行動がありました。向精神薬など気持ちを落ち着かせる薬を増やす提案を、家族は受け入れられず、自宅からも近い当グループホームへの転居となりました。

長女の明美さん（仮名）は面会に来るたびに「うちの母、ご迷惑なことをしていませんか？」と申し訳なさそうな表情で私たち職員に尋ねました。伊藤さんの行動は「迷惑なこと」ではなく、その人なりの理由があっての行動として捉えて支援していることを伝えました。

確かに入居後、他の利用者の居室に入ることはあるものの、行動をよく観察すると、布団を畳んだり物をきれいに並べたりと、「整頓しよう」とする行動の意図が分かりました。言葉で思いを伝えることが難しい状態だったため、本人の様子や状況から本人の思いをくみ取りコミュニケーションを取るようにしました。また、向精神薬などを複数種類服用しており、副作用が出ている可能性があったため、医師と相談し、薬の見直しも行いました。本人の意思を尊重しながら支援を行うことで、伊藤さんは私たちの介助を受け入れてくれるようになりました。笑顔が増えるにつれ、明美さんの表情も明るくなっているのを感じました。職員と意思の疎通ができている伊藤さんの姿を見て、喜んでいます。

一見、理解できないと思われる行動であっても、本人の視点から見るとその行動には理由や思いがあります。その背景にある思いを受け入れ、理解しようとすることが本人の安心につながります。

「愛の家グループホーム川口戸塚」（埼玉県）ホーム長