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80歳の松本なつさん（仮名）は、息子家族と同居していましたが、家族が準備した食事を食べていないことが増え、徐々に生活の中で物忘れの症状が出てきました。家族が日中１人で過ごすことを心配し、当グループホームに入居しました。
入居後は繰り返し家族に電話をして落ち着かない様子でしたが「ここへ仕事に来ている」と話し、家事を手伝ってくれることもありました。特に洗濯物を干すことを「私の仕事」と話し、自分の物だけでなく、事業所や他の利用者の物も干してくれました。そのため職員は「私の仕事」と話す松本さんの世界に合わせて、やりたいことができるよう関わり方を工夫しました。
まず、洗濯物を干すだけでなく、洗濯物を取り込んで畳むまでをお願いしました。物干し台は建物と離れた場所に設置していましたが、松本さんのペースで動けるようにリビングから見える場所へ移動し、いつでも物干し台に行けるようにしました。また、洗濯ばさみやハンガーに目印を付け、誰の物か分かるようにしました。松本さんは職員や他の利用者と「自分の仕事」を通して交流も増えました。「今日干す分は？」と職員に声を掛け、洗濯物を毎日干して、乾くと取り込み、畳んで他の利用者に渡してくれています。今では落ち着いて生活し、家族が面会に来ると「また来てね」と笑顔で見送っています。
本人が認識している世界は私たちと異なることがあり、それを否定してしまうと症状は悪化します。穏やかに過ごすためには、本人が認識している世界を崩さずに生活を送ることができるような支援が必要です。今回「ここに仕事へ来ている」という松本さんの世界を大切にして支援したことで前向きに生活できるようになりました。
「愛の家グループホーム多度」（三重県）副ホーム長