※画像はイメージです。

武田勇さん、清子さん夫婦（仮名）はともに認知症の症状がみられるようになりました。
同居する娘の明恵さん（仮名）が介護をしていましたが、自宅での介護に限界を感じ、当グループホームに入居することになりました。

入居直後、清子さんは「なぜ家があるのに、ここにいなきゃならない！」と戸惑い、混乱する様子でした。
私はホームの職員全員で「自分たちの居場所」として安心して過ごしもらえるように、リクエストに応じてなじみの食堂へ食事に行くなど、夫婦の思い出の場所への外出の支援に注力しました。

一つ一つの思い出を重ねるごとに、夫婦ふたりの絆はさらに深まり、私たちとの信頼関係も築くことができました。
明恵さんも仲むつまじい両親の様子に安心していました。

入居から８カ月後、勇さんは急に体調を崩して救急搬送されました。
勇さんは救急車に乗る直前、私に向かって「母さんを頼む」と伝え、その後、回復はかなわず病院で亡くなりました。

清子さんは日々の出来事や私たち職員の名前を思い出すことは難しい状態です。
しかし、勇さんが亡くなってから５年たった今でも、勇さんと私と出かけた時のことは覚えています。
時に笑い、時に涙を流しながら、一緒に思い出話をすることで、勇さんを近くに感じられるようです。
清子さんは「父さんがあんたに私のこと頼んでいったんだよね」「ここが私の居場所だから」と話します。

認知症の方は、実際にあった出来事の記憶が抜け落ちてしまうことがあります。
しかし、その出来事に関連した感情は残り、何年経過しても、その出来事をはっきりと思い出すことができます。
日常の関わりでの良い感情を日々積み重ねることで、信頼関係を築くことができ、自分の居場所として思うことができたのだと思います。

「愛の家グループホーム帯広東12条」（北海道）　ホーム長